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紫炎のうろこ雲

<犬のこの作品についての一人言>
茜が一番好きです。

>続きで作品が見れます。>
 黄昏が来る。

 見上げると空には、

 紫炎に彩られたうろこ雲。

 それを見て私は、

 少し、泣いた。



 遥か彼方の魂よ

 彼女の歌が聞こえるか




  紫炎のうろこ雲




 うろこ雲が綺麗だった。
 私は空と雲をよく見る。入道雲の圧巻といい、雨雲の薄緑の影といい、飽きることがない。
 中でも好きなのが、夕暮れ時のうろこ雲だった。
 一つ一つの雲に映る色が違い、赤、黄色はもちろんのこと、茜色もあれば、トキ色もあり、夜が迫ってくる方だと、藍色さえある。
 その中でも好きなのが、赤紫色のうろこ雲、私が言う、紫炎のうろこ雲だ。
 今もよく見るけれど、中学生の時が一番空を見ていたような気がする。
 理由は色々あるけど。

  ♪

 秋の風が心地よかった。特に屋上に流れる風は清流のように身体を突き抜けていく。
 とは言っても寒いには変わりなく、私はコートにマフラーと、秋とは思えない完全装備で屋上にいた。慣れた手つきでビニルシートを広げ、その上で大の字になって寝る。屋上の鍵は壊れていたり。
 今日も、綺麗なうろこ雲だった。空一面を覆っているそれを見ると一種の爽快感さえ沸き起こる。
 夕暮れが近づいてくる。
 私が一番楽しみにしている時だ。
 だけどその時は、ガラララッ、という音に遮られた。
「青っ! またこんな所にいて! 恥と外聞ぐらいいい加減にわかりなさいっ!」
 私に怒鳴り声を上げるのは、春日茜(かすが あかね)。私の親友だ。
 でも、さすがにその言葉にはむっとした。
 ポケットから折り畳まれたプラスチック板を取出し、開ける。その中にはピンク色のビニルが張ってあり、横にはプラスチックのペンが固定されている。
 私はそれを取り、ピンク色のビニルの上にペンを走らせる。走った後には、白に近い軌跡が残った。
『うるさいなぁ』
 それを茜に見せる。
「うるさいなぁ、じゃないわよ! 親友としての忠告わからない? 永森青葉さぁん?」
 びりり、と二層構造のビニルの一層目をはがし、戻し、またその上から書く。
『はいはい』
「全然わかってないでしょ、青」
 はあ、とため息をつき、私の横に座る。
『結局座ってる』
「あんたに付き合ってあげてるの。それくらい分かりなさい」
 ぺしり、と茜は私の額を軽く叩く。少し痛い。
「今日も、うろこ雲が綺麗ね」
 茜が空を見上げて、言った。

  ♪

 私には『声』がない。病名は確か、先天性声帯異常なんたら。私にはどうでもいいことだった。
 実際、現代生活には声なんて要らないんじゃないか、と言うくらい不自由しない。
 人間関係が希薄になった現代だからこそ、私は結構普通に生きている。周りの人たちは、可哀想などと見ているらしいけど、いい迷惑だったり。
 そして、私が話をしようとする相手は、茜くらいだった。

  ♪

 その次の日も、うろこ雲が綺麗だった。
 いつも通り横になる。
 やっぱり、ここが気持ちいい。
 夕暮れが近づく。
 ガラララ、と引き戸が開く音がする。
 茜が来たと思い込み、無視して空を見る。一層の紫炎のうろこ雲を見つけた。
「こんにちは、永森さん」
 頭の方から声がした。驚いて上半身を起こそうとして、
 額から脳に衝撃がきた。
「痛っぅ――」
 痛っぅ――って、え、な、あ、う?
 痛みで頭が回ら――。何が起きたかすら分から、いやいや、頭に何かが当たったのは分かるんだけど、何が当たったのか、
「あたたた、い、いきなり頭突きとは驚いたなあ。しかも結構硬いし痛い」
 あはははは、と赤くなった額を押さえながら、男の子が笑う。
『誰?』
 と見せる前に引き戸の方から叫び声が聞こえた。
「なぁ――――っ! あおが男の子と一緒にいる――っ!」
 茜だ。それはもう、驚愕の顔で私と男の子を見る。
 ただでさえ人見知りする私の横に男子がいたら、私でも驚く。というか、私が驚いているけれど。
 茜はその男の子を見るために近づく。茜は近眼だったり。
「し、しかも、あ、あの、泉周(いずみ しゅう)先輩っ?!」
 男の子は結構有名人らしい。先輩? 同い年かと思った。
『知ってるの?』
 私は茜の方に見せる。
「知ってるも何も、って青が知ってるはずないか」
 また盛大なるため息。まるで、青は世間知らずだから、と言いたい感じのため息。むかつく。
「僕のこと知ってるなんて光栄だよ、春日さん」
「……あれ? 何でわたしの名前、知ってるの?」
 それっ、と茜にビッと人差し指を向ける。
「二人とも結構有名だよ?」
 至極当然のように泉先輩は言う。どう有名か書き詰めたいけど置いとく。その代わりにこう書く。
『何か用?』
 それを見た泉先輩は、
「ああ、そうだった。実は、永森さんと春日さんに、文化祭での僕の部の出し物に参加してほしいんだ」
 人数が足りなくてねー、と苦笑いする。
「泉先輩の部活ってなんですか?」
「人権部だよ」
「そうなんですか、で、出し物っていうのは?」
「手話コンサートするんだ」
 ブッッ! 私と茜は同時に吹いた。そして、茜はクックックッと耐え笑いをして、私は泉先輩が解るくらいに不機嫌な顔をする。
「ど、どうかした?」
 その反応を見て動揺する泉くん。茜はまた吹き出しそうになるのを堪えて、説明する。
「えっと、この子、手話できないのよ」
「はい?」
『障害者全員が特殊コミュニケーションを使えると思うのは偏見』
 そう、私は手話ができない。正しくは必要がない。
 言語が通じるには、相手が言語を知らなければならないように、手話も相手が知らなければ、意味がない。
 それよりも私は万人に通じる文の書き方を覚えた方がいいと思って、このスタイルになった。
「ごめん……いや、でも、出来ないのならむしろやるべきだよ!」
 …………え、何、should?
「そうよね、出来ると出来ないじゃかなり違うよね」
 ニヤリ、茜が横目で私を見ながら笑う。私は嫌な気が、いや、リアルにヤバイ。
「大丈夫よ、あお。私も参加するから。まあ、合唱部と掛け持ちになるから時々にしか行けないけど」
 ニヤニヤ、と笑いながら、ポン、と肩を叩く茜。
「ありがとう、永森さん、春日さん!」
 にこぉ、と微笑む泉先輩。
 結局、なし崩し的に私は了承してしまった。

  ♪

「へぇ、永森さん、ピアノ弾けるんだ」
『上手くないけど』
 夕方、雲一つ無い空の下、いつも通りブルーシートをひいて、座っている。
 違うことといえば、隣に泉先輩がいるくらい。
 まあ、あれ。タイムスケジュール上の都合。
 学校での部活動時間は決まっていて、申請しないかぎり、延長できない。
 合唱部の方があるため、練習が出来ない茜は、一旦部活を終わらせて屋上で手話の練習する、というハードな生活をしている、いや、私たちもだけど。
「ごめん、遅れた!」
 あはは、と言いつつ、走ってきたらしく、肩で息をしている。
「おかえり、春日さん。さて、始めますか、永森さん」
 頷いて立ち上がる。
 グラウンドを照らす光が屋上まで照らす。
 泉先輩の手話に合わせる。歌に合わせる。
 泉先輩が笑う。私もつられて笑った。
 簡単に、時が過ぎる。
 楽しい。
 素直に、そう思った。

  ♪

 文化祭当日、いよいよ私達の番になった。柄にもなく緊張する。泉先輩が待機する部の人、参加した人達の前に立ち、
「みんな、これまで練習してくれてありがとう。これまでの練習のように、気を抜いて、自然に歌い、手話をしよう。みんななら、出来る!」
 全員が、力強く、頷いた。
 舞台に立つ。観客が見える。胸の下辺りに手を固定する。音楽が流れる。
 そして、泉先輩の、茜の、みんなの声と手話が一体化した。
 その後、歓声が沸き起こった。
 ステージから暗幕へと下がった後、私は泉先輩の肩を叩き、
『凄い歓声だったね』
 と見せたとき、彼はこう答えた。
「ああ、お疲れさま、永森さん」
――――え?
 明らかに、
 答える、
 言葉が、
 違う。
 そう思った時、すでに彼は、泉先輩は、その場で――
 倒れていた。

  ♪

 生きていること自体が奇跡。それが、泉先輩の体の現状だった。
 彼の『生きる道』。
 抗癌剤、副作用による常時抱える痛み、余命宣告、宣告超過の、一ヵ月。
 彼の『輝き』。
 命燃え尽きる、最後の光。
 彼の『強さ』。
 遣り遂げる意志。
 病室に入る時、私は、どんな顔をして彼に会えばいいだろう、と思っていた。泣きそうな顔のままで? 偽物の笑顔で化粧をした顔で? 自分で言っていたのに。『可哀想なんていい迷惑』と。
 だけど、そんな悩みは、必要なかった。
 ガチャリ、ドアを開ける。白い部屋が見える。白いシステムベッドで上半身を上げられた泉先輩がいた。そして、言った。
「こんにちは。……えっと、誰だい?」
 泉先輩の眼は、もうすでに、見えなく、なって、いた。
「ああ、そうか、永森さんだね? ありがとう、お見舞いに来てくれたんだ」
 聴覚を頼りに私の方へと向き、ニコリ、と相変わらずの微笑みを向けてくれる泉先輩。
 なんで、そうやって、明日にも、死んでしまうかも、知れないのにっ!
――――何で、この人は、笑えるのだろう。こんなにも優しい微笑みを向けてくれるのだろう。
 私には、分からなかった。
 こっちに来てくれるかい? そう言われて、ベッドの横に立つ。
「まだ、遣り残したことがあったんだ」
 それを聞いてなぜか安心した。きっと泉先輩なら、それを遣り遂げるまでは死なないと、勝手に、そんな希望を、持ってしまった。
「でも、これはある人を悲しませてしまうから、あきらめようとしてたんだけど――――ダメだ、我慢できない」
 だけど、すぐに希望が崩れた。今すぐ、遣り遂げれること、それは……?
「永森さん、僕は、貴女のことが、好きです」

 ああ、そうか、私は、泣きそうになる理由を、勘違いしていた。それは、『可哀想』ではなく、――『別離の悲しみ』に、近いものだったんだ。

 つまり、私は、彼のことが、
 そこまで思って、絶望した。
 この思い、どうすれば伝わるのだろう、と。
 書いても、手話をしても、伝わらない彼に、どう伝えることが出来る?
 私は、『声が欲しい』と望んだ。手に入らない、聴いたことのないモノを望んだ。
 声のない私を、恨んだ。
 その時、彼が私を引き寄せた。ベッドの上で前かがみになる私。そして、彼は私の胸に耳を当てた。
「大丈夫。君にも声が、ある。素晴らしい、生きているという、声が。青葉にはその声で歌ってほしい。僕の願いは、それだけなんだ――」
 黄昏が来る。窓から見えた天(そら)には、一面のうろこ雲。
 その中に、紫炎を纏う一層の、光があった。
 あれは、貴方が生きていたという証。私が生きるという証。
 私はその光の下で、彼と、口付けを交わした。

  ♪

 涙を拭く。体を前に起こす。ついでに背伸び。
 ガラッ。
「もう! またこんな所にいて! あんた、いくら屋上が解放されてるからって時間を考えなさい! 時間を!」
『ごめん。あ、コンサートの時間いつだっけ?』
「自分のコンサートの時間くらい覚えとけーッ!」
 あれから私は曲を作るようになった。色々考えたけど、彼に届く気がしたのはやっぱり歌だった。
 茜はユニットを組んで私の曲を歌ってくれた。今では有名になり、コンサートが開けるほどだ。
 私は、生を声にして、歌い続ける。
 貴方に、聴こえるように。
《では、『夕雲』、最初の曲は、デビュー曲の――『紫炎のうろこ雲』》



  紫炎のうろこ雲  了



 ああ、聴こえるよ

 彼女の声と、歌が

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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